「アッシュ系」という言葉は、随分と一般的になりました。あ、ヘアカラーの話です。
2016年6月に発表された美容室専用カラー剤の《THROW(スロウ)》。その特徴は何といっても青色にあります。それは新しいアッシュ系カラーを生み出す冒険の始まりを告げる青でした。
THROWは既存のカラー剤と比べても、かなり大胆に赤の色素を抑え、意図的に青の色素を強く配合しています。しかも紺色ではなく、やや水色に寄せられた青味。それは潤沢な水分に導かれて髪の内部で発色し、透明感をまとったカラーを生み出します。
ここまで潔く、思い切った配合を行ったカラー剤はありませんでした。わたしももちろん、多くのヘアースタイリスト、カラーリストは、これを待ち望んでいたのです(涙目)
そして繰り返し施術していくうちに気付かされるツヤ。これも特筆すべきTHROWの特徴だと思います。
シルクプロテインの複合体に加え、シアー・ホホバなどのオイル分がバランス良く配合されているのは伊達ではありませんでした。その上、従来のカラー剤よりも油脂の総量そのものは抑えてあるため、サラリと軽い仕上がりが演出されます。
さて、何故“青“がアッシュ系カラーにとって重要なのか?
理由がお知りになりたいというご奇特な、いえいえ、
探求心豊かな方のために、簡単な説明を。
結論から言えば、「補色」の特性を利用しています。
アッシュ系カラー剤には“青紫色“が配合されています。これは補色の関係性を踏まえた、色たちの持つ特性を利用するための隠し味。
美術の授業で見た記憶がありませんか?様々な色を並べた輪っか。そうです色相環。その向かい合ってる色どうしが補色の関係です。
補色は、並べて配置するとお互いを引き立て合う、という特徴があります。例えば赤と緑という組み合わせも(およそ)その関係となります。イタリア国旗の鮮やかさは、赤と緑という補色ペアの魅力が一役かっています。そして緑の葉が茂る中での赤い花。その美しさに、異論のある方はおられないでしょう。ちなみに、「紅一点」という言葉は、万緑の中で赤く咲く一輪の花を詠んだ詩、それを由来にしているのだそうです。
実は補色にはもう一つの特性があります。これが重要。
(水彩絵の具の場合)補色の関係にある2色は混ぜ合わせると、灰色から黒色の無彩色になるのです。この特性がヘアカラーにも応用されます。
さてアッシュ系カラーに含まれる青紫は、黄色寄りの橙色あたりの補色です。つまり、オレンジの補色はおよそ青紫ということでもあります。
日本人の髪の毛は7~9レベルのカラーを施術した際、オレンジ色が強く残り、カラー剤本来の発色が妨げられてしまうケースが、とても多いのです。そのため、赤系のカラーを望まれている場合を除き、補色の青紫をぶつけて髪のオレンジ色を無彩色化してしまう必要があります。そうやって表れた髪色こそ、無彩色を含んだアッシュカラーの素地となるわけです。もちろん、一口に青紫と言っても、その方々により青味を強めたり紫に寄せたりとの微調節が必要なことは言うまでもありません。
アッシュをつくるためには青色が必要なことが、これでご理解頂けたと思います。
新しい青は、新しいアッシュをつくる依り代となるのです。
さらに青は、ヘアカラーの重要なトレンドメーカーとして、「ブルージュ」という彼岸へと向かうのでした。